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【連載:chez Nicole(シェ・ニコール)】vol/61-季節の香り

post date:2019.06.12

嗅覚と記憶の関係にはいつも驚かされる。

春をすぎて夏に向かうこの時期、コリアンダーのお花が出回ります。
白くて小さくて、みんなくねくね、ゆらゆらした自由さとむじゃきさが愛おし過ぎる。
そして、お花でさえもしっかりパクチーの香りを放っているので、この時期はタイ料理を食べる機会が圧倒的に増えます笑

でも、コリアンダーは、そんな私の巨大な食欲をも上回る力で、「苦い思い出の引き出し」を問答無用に開けていくお花でもあるのです。

パリ時代、ちょうどこの時期にエルベ・シャトランというフローリストの元で研修させてもらっていました。
(日本にも渋谷の東急文化村にエルベの店舗があります)

花屋経験ゼロ、フランス語ゼロで挑んだ結果、なんとも悲惨な状況を招き、ある種ターニングポイントの一つとして私史上に刻まれた時間です。

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コリアンダーの花の香りを嗅ぐと、具体的な思い出よりも先に、その時に感じていた胸が「きゅーー」となる苦しさが今でも反射的に起こるので、毎年、自分に「まだ覚えてんのかい!(笑)」と心の中でつっこんでいます。

ローズバッドでの研修の順番を待つ間、花に触れる機会を増やしたくて、他の店舗でも働いてみたい!と思い、パリ市内でお花屋さん巡りをしました。

どの店舗もすでに、日本人のスタジエール(研修生)が働いていて「花屋経験ゼロ」「フランス語ゼロ」の私なんか到底受け入れてもらえない状況でした。

そんな時、エルベ・シャトランは東京に出店しているのに、日本人スタッフがいないことに気がつき「私は日本人」という、唯一の武器が意味を成すのではないか!?という考えに至ったのが始まり。

そこから、エルベに直談判すること1ヶ月。

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語学学校の先生に事情を話して、カンぺを作ってもらって音読の練習をし、忘れないようにメトロの中でも呪文のように唱えながらエルベのブティックに向かう毎日。

意外と人懐っこいパリの方々。
メトロの中では、毎回、私の呪文を直してくれるマダムやムッシュに囲まれて最後には「がんばってね!!」と必ずエールを送ってくれました。(東京だと考えられない環境ですね)

エルベに「Non」といわれても、旅の恥は掻き捨てだ!と勇みながら、次の日も、次の日もエルベにお願いしに行きました。

会社員の時は、飛び込み営業なんてまじで無理!と思っていたけれど、事情かわればこんな行動力が出せる自分に感心しました。

今日こそは!と毎回思いながら尋ねていってたけど、ようやく、エルベが
「じゃあ、わかったよ。この花とこの花と…はい、この花材でブーケを作ってみせて」とテストを与えてくれた瞬間の緊張と「OK」をもらった時の嬉しさは絶対に忘れない。

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そんなこんなで「念願叶って」という言葉を実感しながらスタートした研修は、まぁ言葉がわからないし勝手もわからずで撃沈の連続でした。

それでも、厳しくも愛情たっぷりに接してくれたエルベと教育担当のマリナには、申し訳なさと感謝が同じ大きさであります。しかも、蓋をあけてみたら、エルベのお店では研修生を今までずっと(国籍問わず)断っていたそうで、私が初めてのスタジエールと知った時には、震えました。

大量のバラの水揚げを素早く行うために、サントノーレ通りのバラ専門店の窓ガラスにへばりつく様に作業をガン見してヒントを見つけてきたり、仕事終わりにフランス人の友達にフランス語を教えてもらったり、フランス語が堪能な友達と同じ語学学校に通い直したり(学費高かった涙)、お店の中で出来ない事を一つでもできる様になる為、思いつく限り、手当たり次第の突貫工事をしました。

傷つくプライドがあるほどの技術も持っていないくせに、30歳手前にして、こんなにも仕事ができないのか…何も成し得てないじゃなないか…という状況にこてんぱんになりながらやってきてしまった研修最終日。

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エルベとマリナがサプライズでシャンパーニュとパリブレストを用意していてくれました。
エルベのお店では、花以外にも香りの良いスキンケア用品も取り扱っていて、日中、マリナが「みぎわはどの香りが好き?」とさりげなく聞いてくれた時に選んだアイテムまで一緒にプレゼントしてくれる優しさったら。

「これを使って、あなたもパリジェンヌになるのよ♪♪」と言われた時には、涙が止まらなかった。

この時期のことを思い出すと、不甲斐なさと申し訳なさでいっぱいで、結構本気で苦しくなるのですが(笑)、だからこそ成長を持って恩返ししよう!頑張ろう!と自分に喝が入ります。

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来週6/20(木)、NHKの番組にパリの花屋特集のナビゲーターとして出演させて頂きます。
3月にパリで取材をしていたのですが、その時は残念ながらエルベは不在期間だったので伺えなかったのが残念。

でも、その他、たくさんの贅沢すぎるパリのトップフローリストの皆さんに出演して頂ける内容となりました♪
トップフローリストご本人たちにこんなに花事情を伺えたのが奇跡のよう。

パリが好きな方、お花が好きな方、よかったら観てみてください^^

6/20(木)22:30-
NHK総合「世界は欲しいモノにあふれてる」

 
 
 
 

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フラワーデザイナー
秋貞 美際 / migiwa AKISADA


 
IT企業で勤めた後、花修行のためパリへ渡る。現在は、フリーランスにてギフトフラワー・装花・ワークッショプの開催などを行う。
 
HP:http://migiwao.com
IG:jardin_de_muguet
 
 
 
 

●「chez Nicole(シェ・ニコール)」とは・・・
フランス語で「ニコールの家」という意味です。
パリでの花修行中、「migiwa」と覚えられなかったムッシューが私を「ニコール」と命名しました。
お隣さんはどんな風にお花を飾っているんだろう?という感じでchez Nicoleをのぞきにいらして下さい。
ちなみに「ニコール」という名前は、わりと古風な名前の様で今の若者たちにはあまりいない名前だとか…

Noriko Hirose

編集長【写真】

Nstyle主宰。航空会社の客室乗務員から、アルマーニ・ジャパンに入社、アパレルの世界へ。その後、タレントのスタイリストとして活動。現在は“女子力”を提案するスタイルプロデューサーとしてイベントや商品のプロデュース、ファッションブランドコンサルティングをはじめ、ファッション、ビューティー、ライフスタイル情報を雑誌・ラジオ等で発信している。
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